ニッと笑って大輔を見ると、大輔は「えっ?」という顔をした。


「主任、それって……?」

「やだなあ。冗談なんだから、間に受けないで?」

「はあ……。僕は、あのカクテルの味はどうだったのかなと思って。あと、アルコールは強くなかったのかな、って……。僕が飲んだ『マルガリータ』っていうのは、かなり強くて、すっかり酔っ払っちゃいました」

「あ……そ、そうよね? 分かってるわよ? そうね……甘酸っぱくて、サッパリして、とても飲みやすかったわよ? アルコールはあまり強くなかったわ」


(うわあ、私ったら恥ずかし過ぎる……。私が言った意味、嶋田君に通じてないとよいのだけど……)


「ああ、そうですか。でも、その前に言った冗談って、どういう意味だったんですか? “その気になる”とか、ならないとかって何のことですか?」

「え? 私、そんな事言ったかしら?」

「言いましたよ? “もう一杯飲めばその気になったかも”とも言ってましたよね? あれはどういう意味なんですか?」

「さあ……憶えてないわ」


(ここはなんとしても、しらを切らないと……)


数歩歩いた後、大輔はいきなりピタッと歩みを止めた。


「あ、分かった!」

「え?」(分かっちゃったの?)

「やっと分かりましたよ?」

「あ、そう? とにかく歩きましょう?」


素知らぬ顔で歩き掛けた加奈子だが、大輔に腕をグイッと引かれてしまった。


「主任って意外と……」

「な、何よ?」

「エッチなんですね?」


(あちゃー)


間も無く梅雨が明けようかという、ある蒸し暑い夜の事だった。