「聞いてなかったのかい!? あるいはメールが行かなかったかな? 幹事の西村さんから……」


西村というのは宣伝課の女性で、歳は50近いベテラン社員だ。独身でヒラで、実は影で加奈子の異動と昇格に先頭を切って文句を並べる人間だった。


「なかったと思います、たぶん……」

『クソ……俺とした事が、油断した……』

「え?」

「いや、何でもない。そうかあ、それは済まなかったね?」

「いいえ、部長のせいでは……」

「いや、僕の責任だ。配慮が足りなかった。僕から君に伝えておくべきだったんだ。申し訳ない」

「そんな……」


加奈子は部長の香川に頭を下げられ、面食らってしまった。


「今夜なんだが、君の都合はどうだろうか?」

「大丈夫です。何も予定はありませんから」

「そうか!? ありがとう。助かったよ」


加奈子は驚きはしたものの、幹事の単なるミスだと思い、その事自体はさほど気にならなかった。ただ、香川が呟き、確かに聞こえたと思う“油断”という言葉が、心に引っ掛かるのだった。