素敵な上司とキュートな部下

「知ってたの!? なんで黙ってたのよ?」

「そんな大きな声出すなよ。姉貴から口止めされてたんだよ。それよか食い物……」

「まったくあんた達は、親に内緒で勝手な事ばかり……」


母親の小言が続く気配なので、剛史は立ち上がって自分で食べ物を漁ろうと思った。


「加奈子ったら、香川さんのどこが気に入らなかったのかしら」

「それは姉貴にしか分からない事だろうな。“恋は異なもの味なもの”って言うし」

「そう言うけど、部長夫人の椅子を蹴って、わざわざ貧しい青年を選ばなくてもいいと思うのよね。これから先、ずっと苦労するのよ?」


それを聞き、剛史はピタッと足を止めると母親を振り向いた。


「それは違うだろ? 部長夫人よりも院長夫人の方が経済的には上だと思うよ?」

「院長夫人? 剛史、あんた何言ってるの?」

「あれ? おふくろ達は聞いてないのか?」

「何をよ?」

「だから、大輔は医者になっておやじさんの病院を継ぐって話」

「えっ?」

「何だと?」


それまで黙っていた父親も、剛史の話にはびっくりしたようだ。