午後から加奈子は香川に付いて取次7社に挨拶のために行った。社の車を使ったため歩いた距離はさほどではないが、それなりに神経を使い、正直なところ加奈子はヘトヘトであった。


「今の所で終わりだよ。疲れたかな?」


社に戻る車中、香川も少し疲れた様子で加奈子に語りかけた。


「はい、少し……」

「だよな? この時間だと戻ってすぐに出掛ける事になるが、頑張ろうな?」

「え? は、はい……」

「ところで、君は酒は飲めるのかな?」

「お酒ですか? 付き合い程度には飲めますけど?」


加奈子は不思議に思っていた。香川の話に脈絡がない気がして、意味を掴みかねていた。香川は戻ってまた出掛けると言ったが、いったいどこへ行くのか。なぜ急に酒の話が出て来たのか……


「初日に重なって君も大変だと思うが、今日しか都合が付かなくてね」


更に意味不明な事を言われ、とうとう加奈子は聞く事にした。


「部長。すみませんが、何のお話でしょうか?」

「何のって、もちろん君の歓迎会の事だよ」

「私の歓迎会……? 今日ですか?」


加奈子にとって、それは正に“寝耳に水”であった。