加奈子は驚いて目を大きく見開いた。なぜなら、今夜加奈子が親友の志穂を訪れた目的のメインは、会社での異動を報告する事だったのだが、それを相手の志穂から先に言われてしまったからだ。


「そうだけど、なんで知ってるの? 今日発表されたばかりなのに……」

「そりゃあ、総務は情報が早いから」

「ああ、旦那さんから聞いたのね?」


志穂は、“旦那さん”という言葉に反応したのか、「うん」と頷いて頬をほんのり赤く染めた。

愛娘の穂奈美は、母親の志穂に寄りかかるようにお座りをし、さっきは泣きそうだったのが嘘のように、天使のような微笑みを加奈子に向けている。


(いいなあ。志穂は幸せで……)



加奈子は、ある中堅の出版社に勤めていて、所属は流通。主な業務は出版物の在庫管理という、やや地味で、言わば“縁の下の力持ち”的な部署だ。


志穂も、今は退職して専業主婦となってはいるが、かつては加奈子と同期として同じ会社に勤めていた。当時の所属は総務で、そこへ入社して来た新人の神林祐樹と大恋愛の末、2年ほど前に二人は結婚(ゴールイン)した。実に8歳差のカップルだ。