「お母さん、それ私がやるわよ?」

「あら、いいわよ。あなたはこれから出掛けるんでしょ?」

「まだ少し時間あるから、私がやっとく。お母さんは洗濯の途中でしょ?」

「そっちは今ガラガラ回してるところだから大丈夫よ。手とか汚れちゃうわよ?」

「洗えばいいだけでしょ? 私がやるって……」

「いいから、あなたは座って待ってなさい」

「ううん、お母さんこそ少し休めば?」


といった攻防(?)を繰り広げていたら、重低音の車の排気音が加奈子の耳に届いた。


(彼が来ちゃった! こうなったら強行突破するしかないわ!)


「お母さん! 私、時間を勘違いしてたみたい。もう行かなくちゃ。じゃあね!」


そう言って大急ぎでサンダルを突っかけ、加奈子は玄関のノブを掴んだのだが……


「ちょっと、加奈子。あなた手ぶらで出掛けるの?」


と母親から言われた。加奈子は手提げのバッグをリビングのソファーに置いたままだったのだ。


「そ、そうよね! あはは」


と笑いながら、加奈子は大慌てでサンダルを脱ぐと、リビングにダッシュした。そしてバッグを引っ掴んで玄関にまたダッシュをしたのだが……


ピンポーン


来訪者を告げるチャイムが鳴り、「あら、どなたかしら」と言いながら、母親がドアを開けてしまった。