コトが終わり、大輔の腕の中で余韻に浸りながら、加奈子はある事を思い出した。


「嶋田君?」

「はい?」

「もう会社を辞めるなんて、言わないわよね?」

「桐谷から聞いたんですね?」

「うん」

「まだ迷いはあるんですけど、辞めようと思ってます」


加奈子はハッとして顔を上げた。


「嘘でしょ? どうしてなの?」

「俺のおやじは小さな病院の院長なんですが、その後を継ごうかなと……」


前に剛史から聞いた話を加奈子は思い出した。大輔は本来医者になり、父親の病院を継ぐはずだったという話を。


「お医者さんになるの?」

「はい。俺、医学部に入ったんですが、おやじと喧嘩して大学を中退して今の会社に入ったんです。医者になるのをやめて。でも、おやじが寂しがってるっておふくろから聞いたんです。俺、元々医者になるつもりでしたし……」

「そうなんだ……」


せっかく想いが通じ合ったのに、大輔と会えなくなると思ったら加奈子は悲しくなってしまった。