素敵な上司とキュートな部下

「課長！ 気分が優れないので早退します！」


加奈子は職場に戻るやいなや、課長の小林にそう告げながらパソコンをシャットダウンした。


「あ、はい。とてもそんな風には見えないけどね」


小林の皮肉は加奈子の耳に入らず、呆気に取られる周囲の目を構う事もなく、加奈子はバッグを持つと一目散で会社を飛び出した。


タクシーを拾おうかとも思ったが、渋滞に巻き込まれるとかえって遅くなると思い、駅まで走って電車に飛び乗った。


（もう、速く走ってよ！ 嶋田君が死んじゃう！）


電車に乗りながら焦り、その速度にイライラする加奈子には、携帯で大輔の安否を確認する、という考えは完全に抜け落ちていた。


電車から降りるとまた加奈子は走り、アパートに着いて階段を駆け上がった時には、息は上がるし体は汗でびしょ濡れだった。しかしそんな事には構わず、加奈子はハアハアと肩で息をしながら、ドアのブザーを数回指で圧した。


（もし嶋田君が出て来なかったら管理人さんにドアを開けてもらわなくちゃ。あっ。管理人さんってどこにいるんだろう？ 隣の人とかに聞くしかないのかな）


などど心配していたら、意外にも呆気なくドアが開いた。