「な、何を言ってるのよ! そんなはずないでしょ?」


まさか美由紀からそんな事を言われるとは思ってもみなかったので、加奈子はひどく驚き、慌ててしまった。


「そうでしょうか? 加奈子さん、嶋田先輩の事、好きなんですよね?」


きつく、探るような目で自分を睨む美由紀の顔を見ながら、加奈子は気持ちを落ち着かせるために深呼吸をひとつした。


「それは認めるわ。でも、嶋田君の事は諦めてる。年が違い過ぎるし、今は美由紀ちゃんとお付き合いしてるんでしょ?」

「本当ですか? 本当に嶋田先輩の事、諦めたんですか?」

「もちろん本当よ?」


加奈子は美由紀の目を真っ直ぐに見返して言った。加奈子自身、その事にもう迷いはなかった。


「だったら、どうして部長さんと別れたんですか?」


さっきと同じく、“答える義務はない”と言おうかと思った加奈子だが、表情が穏やかになった美由紀を見て、それはやめた。


「そういう計算をするのはやめたからよ。香川部長は素敵な人だと思うけど、それだけなの。付き合ったり結婚したりは、好きな人としかしたくないの」

「あんな素敵な人を振って、もったいないと思わないんですか?」

「うふ。そうね、もしかすると後になってそう思うかもしれないわね? でも、私は自分の気持ちに正直に生きたいの。そうする事にしたの。一生独身でも構わないわ」


加奈子が笑顔でそう言うと、美由紀はなぜかハアーとため息をつき、下を向いてしまった。