「でも、言っちゃ悪いけど、その男と君は……」

「分かってます。いくら想っても無駄だって事は。でも、ダメなんです……」


そう言って俯いた加奈子の目から、涙が溢れ出した。それが何の涙か、加奈子自身にも分からないのだが。


そんな加奈子を見て、香川は深いため息をついた。愛しい女性が目の前にいて、その気になれば抱けるかもしれないこの状況で、自分は諦めないといけないのか、と……


「岩崎君、一つだけ頼みを聞いてもらえないだろうか?」

「…………」


加奈子は無言で顔を上げると、香川を見つめて彼の言葉を待った。


「最後に君を抱きしめたい。いいかい?」


加奈子はコクッと頷いた。香川に乱暴されても仕方ないと思っていたぐらいだから、それを拒む理由などない。


加奈子は香川に引き寄せられ、その広い胸に顔を埋めた。気のせいか、その香川の胸が小刻みに震えているような気がした。もしかすると、香川は泣いているのかもしれない。そう思っても、いや、そう思えばなおさらの事、加奈子は香川の顔を見る事が出来ず、掛けるべき言葉も見つからず、


「ごめんなさい……」


としか言えなかった。