「部内には快く思っていない者がいる。それも大勢、いやほぼ全員と言ってもいい」

「僕は違いますよ。あと桐谷も……」

「そうだな。そう思ったから、おまえ達を飯に誘ったんだ」

「はあ……」


“さすがは部長”と大輔は思ったが、そんなお調子を言う雰囲気ではなかった。


「おまえの耳にも入ってるだろ? 俺がえこひいきしてるとか、もっと下らない噂が流れているのを」

「はい。聞きたくないですけどね……」


香川が言った“下らない噂”とは、香川が加奈子に気があり、傍に置きたいがために強引な人事で彼女を呼び寄せた、というもので、それは否応なしに大輔の耳にも入っていた。


「俺がそんな公私混同をすると思うか?」

「いいえ、思いません」


大輔はキッパリとそう言った。だが、内心はそれほど確信を持ってるわけではなかった。

というのは、大輔自身、岩崎加奈子はそれだけの魅力がある女性だと、密かに思っていたからだ。真面目に見える香川部長だが、あるいは……という疑念が、なくはなかった。