「それは……」


口ごもる加奈子。加奈子は、香川の申し出を承諾した事を大輔に告げるのをためらった。それが大輔への想いを断ち切る、最後通達のように感じたからだ。


「受けたんでしょ?」

「えっ?」

「付き合うんでしょ? 部長と」


そう言われてはもはや戸惑ってはいられず、「うん……」と加奈子は頷いた。


「やっぱりそうか。部長がニタニタしてたから、そうだろうと思いましたよ」


そう言ったきりの大輔。加奈子は、吊革に掴まって横に立つ大輔の顔をそっと覗いたが、大輔は前を向いていた。それで加奈子も前を見ると、電車の窓にはっきりと大輔が映っていて、その目は真っ直ぐに加奈子を見つめていた。いや、睨んでいたと言うべきか……


その大輔らしからぬきつい視線に耐えられず、加奈子は目を逸らした。


「主任……?」

「…………」

「お幸せに」


それが加奈子に向けられた、大輔の最後の言葉だった。