美由紀は、脱いだ服や靴を手提げのバッグに詰めていた。


「それ、どうするの?」

「ここに置いて行きます。こんなのぶら下げて歩いたら格好悪いですから」

「ああ、なるほどね……」


(この子、ちゃんと考えてるんだあ。私とは意気込みが全然違うわ……)


「さあ、行きましょう。先輩達が待ってますから!」

「そうね、行きましょう」


元気いっぱいの美由紀に苦笑しつつ、加奈子は浮かない気持ちで歩き始めた。


まだ外は明るく、日差しは昼間程ではないがかなり強く、いつもは暗くなってから社を出る加奈子は、それに面食らいながら歩いて行った。

美由紀と同じく浴衣姿で歩く女の子がチラホラいるのは、おそらく彼女達も花火を観に行くのだろう。


会場の少し手前にある橋が見えて来て、目を凝らすとそのたもとにスタイルのいい二人の男性が立っているのが見えた。大輔と香川だ。

向こうも加奈子達に気付いたらしく、大輔は加奈子達に向かって小さく手を上げた。それに対し、加奈子はどうしようかなと思ったが、横を歩く美由紀はすかさず大きく手を振り、「せんぱーい、お待たせー」と大きな声で叫んだ。

そして駆け出そうとする美由紀に、


「転ぶから、走っちゃダメよ」


と、加奈子は咄嗟に注意した。


「はーい」と言って振り向きながら舌を出す美由紀を見て、若いなあと思うと同時に、自分はおばさんになったような気がして落ち込む加奈子であった。