この日は花火大会のある日だった。

美由紀は夕方から心ここに在らずという感じでそわそわしていたが、加奈子はむしろ沈みがちな気分だった。


大輔と一緒にいられる事への喜びは正直あるものの、会社と同じく自分の想いを隠し通し、単に上司として振舞わないといけないわけで、それを思うととても気が重い。そして美由紀の存在……

加奈子の気持ちを美由紀に気付かれてはいけないだけでなく、もし美由紀が大輔への接近を試みたら、加奈子はそれを静観しなければならない。いや、静観どころか協力しなければいけないのだ。


具合が悪くなったと言って行くのをやめようか。本気でそんな事を考え、しかし言い出せないまま終業の時刻になってしまった。


男性陣と女性陣は別々に社を出て、橋の所で落ち合う事になっている。加奈子と美由紀は構わないが、香川と大輔は花火大会へ行く事をなるべく周囲に知られたくないからだ。特に大輔は編集の子からの誘いを断わってるだけになおさらだ。