私が拓海くんと付き合ってる? なんでここで拓海くんが出て来るわけ? 


そりゃね今日のお昼の時、私を庇ってくれるようなことを言ってくれたのは正直嬉しかったけれど、前にも言った通り姉弟みたいに仲がいいだけで付き合ってるなんてこと全くないのに……。


それを今になってもう一度聞くなんて、いったいどうしたっていうの?


私が何も答えないでいることを、肯定とみなしたのか否定とみなしたのか。どっちとも取れるような顔をして小さく息を吐くと、妖しい光を宿した目を私に向けた。


「菜都ってさ、案外、魔性の女だったりして」

「魔性の女?」

「そう。妄想満載、天真爛漫、素直な元気ちゃんに見えて、実のところは男を虜にする天才。でもそれを自分でわかってないから、ホント厄介」


そう言いながら私の目の前までくると、また顎に指を当てて私の顔をツンッと上げた。


「俺も、菜都の毒牙にかかっちゃったかも……」


甘えるようにそう言って、ゆっくりと顔を近づけてくる堤所長。でもその瞳の奥に、小さく揺らめく戸惑いの色を見つけると、相手が自分の上司だということも忘れて、思いっきりビンタを食らわしてしまった。