堤所長が触れらたことに気づき、驚いたように目を開く。
「ここ、どうしたんですか? 切れてるし腫れてる」
「あぁ……」
触れていた私の手を取ると、その傷を隠すように後ろを向いてしまった。そして、掴んでいる私の手にキュッと力を込めるとパッと顔を上げ、耳を疑うような言葉をボソッと吐く。
「女に噛み付かれた」
「……はぁ?」
私が素っ頓狂な声を出すと、堤所長が振り返る。そこには数秒前までの悲しげな顔はもうなく、また悪魔の微笑みを放つ黒いオーラを纏った堤所長がいた。
「最近の若い奴は、激しいよなぁ~。菜都も彼氏に噛み付いたりするの?」
「しませんしっ!! と言うか、その前に彼氏なんていませんしっ!!」
掴まれていた手を離し、ソッポを向く。
堤所長って最低っ!! 彼氏なんていないのわかってるくせに、そうやってからかって。私のこと、なんだと思ってるのかしらっ。
でも、『女に噛み付かれた』って言ったの、あれは嘘だ。あの傷は噛み付かれてできるような傷じゃない。何かにぶつかったか、叩かれた? いつ、どこで?
ひとり考えていると、堤所長が私を見ているのに気づく。
「な、なんですか?」
「菜都ってさ、本当に西野と付き合ってないの?」
思いもよらない言葉に、反応するのを忘れてしまう。



