「そんな勝手なこと言ってて、よく彼女に愛想つかれないですよね?」
堤所長の目元が、ピクッと動く。
「誰に愛想つかれるって?」
「彼女ですよっ」
「彼女? 誰の?」
「だからっ!! 堤所長の彼女に決まってるじゃな……っ!?」
私の言いたかった言葉は、いきなり顔を近づけた堤所長の唇で口を塞がれてしまい、それ以上何も言えなくなってしまった。
そしてそのキスはすぐには離してもらえず、時々角度を変えては私の反応を楽しむように啄んだ。
どうしてこんな状況になっているのかわからない。でも身体が拒否しないことに驚いていると、急に足元がふらついた。その身体を堤所長が支えたと同時に、唇が離れる。
「ふあぁ……」
息が苦しかったからか、堤所長のキスがあまりにも優しかったからか、口から甘い溜息が漏れてしまった。
「ギャーギャーとうるさい女の口を黙らせるには、キスが一番効くって聞いたけど、本当だったみたいだな」
私の身体を抱きしめると、耳元で甘く囁く。
「私を黙らせるためだけに、キ……キス、したんですか?」
私の問いかけに、堤所長は何も答えてはくれない。その代わり、抱きしめている腕にギュッと力が込められたのに気づく。
それが何を意味しているのかはわからないけれど、もう私の中にはさっきまでの怒りはなくなっていた。



