無意識に目線を上げると、堤所長の目線とぶつかる。
「菜都、どこ見てたの?」
「えっ? い、いや、どこも見てませんけどっ」
慌てて目を逸らすけど、それも後の祭り。
私がどこを見ていたのかお見通しの堤所長は、飲んでいた紙パックを口から離すと、身を乗り出して顔を近づけた。
「菜都って、エロいんだ。俺が欲しいとか?」
はぁ!? 私がエロくて、所長が欲しい?
な、何バカなこと言っちゃってくれてるのっ!?
私は事務所にいる時の堤所長が好きであって、今ここで悪魔みたいに微笑む堤所長は好きじゃないのっ!!
「いりませんっ!! それに私はエロくないです……から」
勢いに任せ大声で言ったものの、最後には声のトーンを落とす。だってエロくないなんて、ムキになって言うことじゃない。それこそ私は“エロいです”と言っているようなもんだ。
気を落ち着かせるために手にいていたフルーツ・オレの口を開けると、一口飲む。フルーツ・オレと言ったって、特別何か果物が入っているわけじゃない。風味付けと着色料で味と見た目を表現しているのだろうけど、何となく懐かしい味にゴクゴクと飲んでしまう。
「やっぱりそれ、好きなんだ?」
「えっ?」
驚きの瞳で堤所長を見ると、普段の堤所長がそこにいた。



