まぁそれも人生か……と腹をくくりリュックを背負うと、後部座席の下にあるスニーカーを取るために、後ろを向いて身を乗り出す。すると私の腰を、堤所長がギュッと抱きしめた。


「菜都さん、何してるんですか?」


突然現れた会社バージョンの堤所長と腰を抱かれていることに驚き、頭と身体の動きが止まってしまう。私の全機能停止。


しばらくその状況が理解できず、息をするのも忘れてしまう。


「お、おいっ、菜都っ!! お前、息しろよっ!!」


それに気づいた堤所長が、私の身体を大きく揺さぶった。


ハッと我に返り慌てて呼吸をすると、途切れかけていた意識が戻り、ふぅ~と大きく息を吐いた。


た、助かったぁ~。


ホッと一息つき身体の力を抜くと、腰のあたりに違和感を感じ目線を下げる。そこにはまだ堤所長の腕がグルッと巻かれていて、またしても驚き緊張が身体を包み込んだ。しかしそんな私を見ても、堤所長からは一向に離れる気配がしない。


それどころか私の向きを変え向かい合わせの状態にすると、ニヤリと不敵な笑顔を見せた。


ゾクッと背筋が寒くなる。


天使の所長に悪魔の所長。


次に出て来るのは、やっぱり……。