「菜都センパ~イ、鈍感ですねぇ~」
「わあぁっ、びっくりしたっ!! 未歩ちゃんっ、いつからそこにいたの?」
彼女が私の肩のあたりからヒョコッと顔を出すと、ニコニコ笑っている。
「ちょっと前からですよぉ。拓海先輩、可哀そうに」
「何で? あっ、マゾだから?」
「菜都先輩、本当に恋愛ドラマ見てるんですかぁ? 未歩には理解不能ですよぉ~」
そう言って肩を落とすと、事務所へと入ってしまった。
理解不能……。なんかあの未歩ちゃんに言われると、すっごく落ち込む。
恋愛ドラマだって、毎朝見てるよ。でもドラマの中に、マゾなんて出てこないし。
全く、拓海くんも未歩ちゃんも、何が言いたいのかさっぱりわからない。
また一段と重くなった気持ちと身体を引きずるように歩き事務所に入ると、自分のデスクが目に入る。まだたくさんある伝票に、ガックリ肩を落とす。
お弁当も食べてる途中だったよなぁ。でももうそれも喉を通らなそう。一気に食欲がなくなってしまった。
「未歩ちゃん。お弁当、一緒に片付けておいてくれる。ごめんね」
それだけ伝えると、心配そうな顔をする未歩ちゃんを置いて、ロッカールームに向かった。



