たった20メートルほどの距離を何分も掛けて歩いていると、後ろからプップーッとトラックのクラクションが鳴った。
「菜都さんっ。そんなお婆さんみたいに歩いてると、トラックにひかれちゃうよ」
後ろを振り向けば、拓海くんのいつもの笑顔。
「お婆さんは余分。って言うか、拓海くんにまで迷惑かけて、ごめんね」
またペコッと頭を下げると、拓海くんがトラックから降りてきた。そして私の顔を両手で掴むと、グッと正面を向かせる。
「な、なにっ!?」
「こんなの迷惑でもなんでもないっ。それに、菜都さんに掛けられる迷惑なら、嬉しいというかなんというか……」
迷惑掛けられるのが嬉しい? それも顔を少し赤くして、そんな告白するなんて。もしかして……。
「拓海くんって、マゾなの?」
「はぁっ!?」
今まで照れたようにモゾモゾニヤニヤしていた拓海くんの顔が、見る見るうちに変化していく。顔は真っ赤、目はつり上がり、わなわなと震え出す。
「ホントに菜都さんって鈍感。もう26なのに、気づかないかなぁ~。あぁぁぁ~、もういいよっ。カンナさんの現場に行ってくる。じゃあねっ!!」
呆れたように言葉を吐き出しだすと、ポカンと立ち尽くしている私を置いて、行ってしまった。
あ、あれ? 私、何か間違ったこと言った?



