目線を外し下を向くと、頭上から大きな溜息が聞こえた。緊張から、手をギュッと握る。
「君は……もう少しちゃんと、大人としての行動をわかってる人だと思ってました。もういいです。午後の仕事は、しっかりとやって下さい」
それだけ言うと肩から手を離し、車に乗り込んでしまった。
よろよろと二三歩車から離れると、堤所長の乗った社用車はあっという間に見えなくなった。
“君”だって。いつもは“菜都さん”って呼んでくれるのに……。
社会人として、使えない女と思われたみたい。できない女ってレッテル貼られちゃったかなぁ。
もう、嫌われちゃったよね。
なんて、今まで好かれてたのかどうかも分からないけど……。
堤所長の最後の何の感情もない声を思い出し、考えれば考えるほど悪い方へと考えが及んでしまう。
堤所長の思わせぶりな態度に勝手にのぼせ上がって、仕事で細かいミス出して、挙句の果てに私は間違ってませんって言ったって、誰も信用してくれないよね。
ここ何日かで一番大きな溜息をつくと、とぼとぼと事務所に向かって歩き出す。



