私のことを見ていた拓海くんの目線が上がり、その顔が少し歪んだ……ような気がした。


でもそのことには触れず振り返ると、堤所長が爽やかな笑顔を湛えて立っていた。


堤所長っ、下から見上げてもカッコいいですっ!!
みんなに飲まされて、頬がほんのり赤くなっている所長に、ボーッと見惚れてしまう。


「西野くん。楽しんでいるところを申し訳ないんだけど、菜都さんと話しをさせてもらってもいいかな?」


今度は物腰の柔らかい口調にウットリしていると、隣にいた拓海くんがガタッと音を立てて立ち上がった。


「いいですよ、今日は所長たちの歓送迎会ですし。それに俺はいつでも“菜都さん”と飲めますからっ」


ってなんで“菜都さん”を強調して言うかなっ。ちょっと口調も、ぶっきらぼうだし。
拓海くん、堤所長が現れるとこんな調子になっちゃうけど、所長のこと嫌いとか?


「もうっ拓海くんっ。そんな言い方、所長に失礼でしょっ」


先輩風を吹かせて注意すると、拓海くんは何も言わずにその場を離れてしまった。