「美味しいお茶、お願いしますね」
堤所長が耳元で囁きゆっくり顔を離すと、唇が私の耳を掠めていった。
偶然当たっただけであろうその行為に、身も心も溶け出しそうだ。
頭のてっぺんにまで到達した熱は顔全体を十分に火照らせると、私を俯かせた。
「堤所長……」
俯いたまま振り返りゆっくり顔を上げると、堤所長はもう自分のデスクで書類に目を通していた。
◇ ◇ ◇
「それでは、松浦所長の本社事業部長への栄転と、堤新所長の我が旭営業所の就任を祝って、かんぱーいっ!!」
「「かんぱーいっ!!!」
営業主任の掛け声で歓送迎会が始まると、みんな勢い良くビールを飲み始める。
私も合わせて一口飲むと、溜息をついた。
せっかく頑張って仕事を終え、いの一番にここへ駆けつけたというのに……
「何で私が、一番末席なのよ」
堤所長を覗き見れば、遥か彼方の上座に座っている。



