「おいおい菜都。俺を殺す気か? ちょっと落ち着け」
龍之介に、胸ぐらを掴んでいる手を包み込まれると、ふと我に返る。
今日は気持ちの起伏が激しすぎて、少々疲れてきた。
ゆっくり手を外されそれをそのまま引かれると、龍之介があぐらをかいている中にスポンッと座らされた。
まるで赤ちゃんを抱いているような姿に、恥ずかしくなる。
「龍之介、これはちょっと恥ずかしいんだけど」
「いいじゃん。菜都の顔もよく見えるし、話もしやすい」
いやいや、逆に顔が近くて恥ずかしいし、話もしづらいんですけど!!
なんて言っても、却下されるだけだから言うだけ無駄。
大人しく抱かれていよう。
「断った理由だけどな。俺はあの営業所に来て、まだ二ヶ月も経ってないんだよな。前任の松浦所長から引き継ぎ、せっかく所のみんなともいい関係を築き始めてきて客のこともいろいろわかってきたのに、ここで投げ出して本社に戻る気にはどうしてもなれなかったんだ。ここで実績を残して、自分の力で本社に戻りたい。それが何年先になるかわからないけどな。それでもいいと思ったんだ」
やっぱり龍之介は、龍之介だ。いい加減そうに見えて、実は努力家で野心もあって、先のことまで見据えている。
清香さんもそう。自分で自分の道を切り開こうとしているのに、私ときたら……。
龍之介と離れたくないなんて、いい大人どころか小さな子供のままだ。
「でもな、本音を言うと……」
そこまでで言葉を切った龍之介が、私の耳元に唇を寄せた。そして……



