「全くお前ってやつは」
呆れたように派手に溜息をつくと、龍之介も私の前に座り込む。
そして両肩に手を置き、顔を近づけ自分の額を私の額にコツンとつけると、とんでもない一言を言い放つ。
「バーカ」
この状態で、『バーカ』ってどういうこと?
いくら龍之介だからって、言っていいことと悪いことがあるってわからないの?
信じられない。もう龍之介なんて大嫌いっ!!
額を合わせていたくなくて身体を離そうとしたけれど、龍之介の肩を掴む力が強くてままならない。
「なぁ。なんかお前、勘違いしてない?」
離してと言わんばかりに動かしていた身体を止める。
「勘違い?」
龍之介の顔を上目遣いに見上げ、わんこの如くシュンと肩を落とせば、「やっと治まったか」と龍之介がぽつんと一言。
「さっき清香が言ってた本社への移動の話。言わなくて悪かった」
あぁ、やっぱり本当なんだ。龍之介の口から事実を告げられると、何か急に緊張の糸が切れたようになってしまう。
「そ、そっかぁ。そうだよね、本来なら龍之介は本社にずっといて課長になって、部長になって、偉い人になる予定だったんだもんね。これは、おめでとうだよね」
ダランと下げていた手を上げ、胸の前で小さくパチパチと両手を叩く。
私ももう子供じゃない。いい歳をした女が、恋人とたかが職場が違ってしまうだけでウジウジしているのはみっともない。
そう自分に言い聞かせると、龍之介に笑顔を向ける。



