「なんで泣いてるの?」
それは、今まで聞いた龍之介声の中で一番優しくて、余計に涙を誘う。
ただ首を振りわからないと伝えれば、小さく震える身体をギュッと抱きしめられた。
龍之介の胸から伝わる鼓動。服を通して伝わる温もり。労るように背中を撫でる手。
全部が愛おしくて、私も龍之介の背中に腕を回し入れた。そしてその身体を離さないように離れないように、ギュッと抱きしめた。
「菜都。抱きしめる力、ちょっと強くないか。痛いんだけど」
龍之介は寂しくないの?
一緒に暮らすんだから、夜は会えるんだろうけど。
本社勤務になったらきっと忙しくて、今までみたいたいには過ごせないよね?
それなのに、どうして笑いながらそんなことが言えるの?
私の気持ちも、少しは察しなさいよっ!!
抱く力を緩めるどころか、私の出せる精一杯の力を出して龍之介を抱きしめた。
「お、おいっ菜都!! マジ、マジに痛いから力弱めろよ。一体どうしたっていうんだよっ!!」
一体どうしてった言うんだよ?
本当にわからなくて、そう言ってるの?
龍之介の鈍感!! おたんこなす!! この唐変木!!
そんな龍之介にさっきより悲しくなって身体から力が抜けると、抱きしめる力も立っている気力も無くなり、その場にぺちゃんと座り込んだ。



