そして清香さんが帰ると、どちらも声を発することはなく、沈黙の時間が続く。
龍之介が本社に戻る───
龍之介のことだ。営業所で確実な実績を作り上げ、いつの日か自分の実力で上へと登っていくだろうとは思っていた。
龍之介は、一営業所の所長で終わってしまうような人間じゃない。
それはわかっていたけれど……。
まさか、こんな早くにそんな日が来てしまうなんて。
でも、そうだよね。弘田さんがことの事実を全部話していき龍之介の疑いが晴れた今、即戦力になる龍之介を本社が放っておくようなことをするはずがない。
そっと龍之介のほうを振り向けば、同じように私の方に振り返った龍之介と目が合う。
「龍之介」
「菜都」
お互い、相手の名前を呼ぶ声に力がない。
そしてこれ以上口を開いてしまえば、『このまま営業所にいて』と言ってしまいそうで、口を固く閉ざす。
私が何も話し出さないのに気づいた龍之介が、少しずつ私に近づき始めた。
一歩、また一歩。それは確実に私に向かってきていて、龍之介から目が離せなくなってしまう。
龍之介は、今何を考えているの?
本社に戻ることを、どうして言ってくれなかったの?
そんな思いが心の中を埋め尽くせば、溢れた思いは涙となって目から流れでた。



