どれだけ泣いていたのだろう。
ふたりとも気持ちが落ち着き始めると、どちらからともなく身体を離す。
少し照れくさくて、お互いの顔を見合わせて苦笑い。
「全く、俺が居ること忘れてないか? これだから女っていうやつは……」
「その後の言葉を言ったら、龍之介さんでも許さなくてよ」
「わかったわかった。そんなに怒るなよ、なぁ菜都?」
「龍之介は女心がまるでわかってない!!」
なんだろう。清香さんがいると、龍之介に勝てるような気がしてきたよ。
こらから龍之介と何かあった時は、清香さんに来てもらおう。
そんな悪巧みを立てていると、龍之介に小突かれた。
「その顔、気持ち悪い」
私は一日に何度、気持ち悪いと言われるんだろう。
頭にきて頬を膨らませていると、龍之介と清香さんが同時に笑い出した。
「菜都さん、私もあなたを見習って、恋に一生懸命になろうと思うの」
「恋に一生懸命?」
「そう。私、父親ともう一度話し合ってみる。彼のことが誰よりも好きなんだってことを、わかってもらえるまで話すつもり。彼との未来の為に、どこまでも戦うわ」
そう言って私のことをもう一度抱きしめると、徐ろに立ち上がり帰り支度を始めた。
「あぁ忘れてた。龍之介さん、あなた来月から本社に戻ることになったって、本当?」
「えっ?」
清香さんの口から出た初めて聞く事実に、思わず耳を疑った。



