「私はその菜都さんの姿を見て、あんな状況だったのに感動で身体が震えたの。人を愛するって、こういうことなんだって……」
「大袈裟だな」
龍之介がそう口を挟むと、清香さんがギロッと睨みを利かす。
さすがの龍之介も、それには反抗を見せず大人しくなった。
「私ね、今付き合ってる彼のことが大好きなのに、結婚を反対する父親から逃げることばかり考えてたの。龍之介さんに協力してもらって、姑息な手段で父親を騙して結婚しようとしていた」
そこまで言うと清香さんは、身体を小刻みに震わせ始め俯いた。
私は清香さんの隣まで移動し、その手をそっと包み込む。
「細かいところまでの話はわからないですけど、清香さんだってそこまでするくらい彼のことが好きなんですよね? だったらそれも、人を愛するってことじゃないですか」
私の言葉に、一瞬身体の震えが止まる。そしてゆっくり顔を上げると、涙がいっぱい溜まった瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。
彼女はずっと辛い恋をしてきたに違いない。たまたま厳格な父親のもとに生まれてきてしまったがために、自由に恋も出来なかったんだろう。
それに比べて私ときたら、誰に何を言われることなく自由に恋ができるというのに、“ドラマみたいな恋がいたい”なんて。清香さんが聞いたら、呆れるよね。
情けない自分になのか、清香さんからのもらい泣きなのか、自然と涙が溢れてくる。
「なんで菜都さんまで泣くの?」
「なんか……自分が情けなくなってきちゃって」
今度は清香さんが私を抱きしめると、そのまましばらくふたりで泣き続けた。