「顔も汚れてるな。菜都のことをこんな目に合わせた弘田のことは許せないけど、その原因を作ったのは俺だからな……」
「龍之介がその原因をわざと作ったわけじゃないでしょ」
「それはそうだけどさ。でも俺も有頂天になってたのかもしれない。周りの状況が目に入ってなかったんだよ」
今更だけどな……と、私のことを見つめる目が悲しげに揺れる。
会社のために一生懸命働いて良い結果を残し、その功績が上のものに認められれば、龍之介じゃなくとも舞い上がってしまうだろう。
それを妬まれ逆恨みされる……。
よくある話だと言ってしまえばそれまでだけど、弘田さんのした行為は許せるものではない。
私の頬にある龍之介の手に、自分の手を重ねる。そしてもう片方の手で、彼の胸にそっと触れた。
「龍之介も、ここが辛かったよね。最初から全部、話してくれればよかったのに」
そうしたら、私だって龍之介のために協力できたのに……。
「それは無理な相談だな」
「なんで? 私だって龍之介の力になれたはず」
「それはそうかもしれないけどな。でも菜都には、俺の弱い部分を見せたくなかったんだ」
そう言って目を伏せる姿は、いつも私に見せる強気な龍之介の姿じゃなくて。
そういう弱い部分も見せてくれたことが、すごく嬉しくって……。
考えるよりも先に身体が動いて、龍之介に抱きついた。



