「悪気はないだろうから、許してやれ」
「そんなこと、龍之介に言われなくたってわかってるわよ」
どうも龍之介に対してだと、まだ反論口調になってしまう。龍之介もそれがおもしろくないんだろう。不服そうな顔をすると、今度は私の頭を軽く小突いた。
清香さんは、そんな私たちを見て苦笑した。
「で、そのことを知った弘田さんが龍之介さんのことをもっと苦しめようと、この旅行中にあなたに何か仕掛けるつもりだってことがわかってね」
そう言うと申し訳なさそうに俯き、今までとは明らかに違う口調で話しだした。
「これは龍之介さんの無実を晴らすチャンスだ!! って思ってしまって……」
ゴニョゴニョと口籠る清香さんに、頭のなかで“チンッ”とある言葉がひらめいた。
「もしかして私って、“囮”に使われたとか?」
「本当に、ごめんなさいっ!! 龍之介さんはずっと反対していたの。でもこれが最後のチャンスだからって、菜都さんのことは龍之介さんが守ればいいじゃないのよって……」
尻つぼみに小さくなっていく声から、清香さんの申し訳ない気持ちが伝わってくる。
彼女も龍之介のために一生懸命だったんだろう。
もしも逆の立場だったら、私も同じことをしていたかもしれない。
そう思うと、彼女のことを責める気にはなれなかった。



