龍之介の勝手な言い草が頭にくる。頭にくるのに、密着している身体から伝わる熱で、胸の鼓動は速さを増していった。
自分の意志とは逆に、喜んでしまう身体。龍之介の首に回している腕に、自然と力が入ってしまう。
「下ろしてって言うわりには、積極的にしがみついてくんのな」
そう言って私のことを見下す目は、何を考えているのか読み取れない。
「お、落とされたら困る……から」
下手な言い訳をしてしまう自分に、呆れてしまう。
仕方がない。どう足掻いたって無理なものは、素直になるしかないのかもしれない。
黙ったまま力を抜いて身体を預けると、龍之介の足取りが幾分軽くなったように感じた。
「お客様、どうなさいましたかっ?」
旅館のフロントに到着すると、従業員が慌てて走り寄ってきた。
超恥ずかしいんですけどっ!!
龍之介の胸に顔を隠すように埋めると、龍之介がクスッと笑う。
「ちょっと足を捻ったみたいで。頼んでおいた部屋に、湿布と包帯をお願いできますか?」
従業員が「かしこまりました」とフロント裏に消えると、龍之介は私たちが宿泊している本館と反対の方へと歩き出した。
と、龍之介が言った言葉を思い出す。
頼んでおいた部屋?
何で部屋なんて、頼んむ必要があったんだろう。
徐ろに顔を上げ横の壁を見ると、『別館 華水亭』の文字が。
えぇっ、別館!?



