「さ、触らない……でよ。龍之介……なんて、大……嫌い」
泣いていて途切れ途切れになる言葉は、本心じゃないことを口走る。
でも今の私じゃ、素直になるなんて無理。
わけがわからないことだらけで頭の中が整理できない。
「大嫌いでもいいから、とにかく話をさせてほしい。頼む」
少しは私の発した言葉が効いたのか、話し口調に力がなくなった龍之介が、私の身体を抱え上げた。
「痛っ!!」
立ち上がった瞬間、足首に激しい痛みが走る。
バランスを崩して倒れそうになった私の身体を、龍之介が強く抱きしめた。
「龍之介、苦しい。大丈夫だから……離して」
「嫌だ、離さない」
龍之介の腕から逃れようとしても、その力は強まるばかりで……。
諦めて小さく溜息をつくと、ふわっと身体が宙に浮いた。
嘘───
気づくと私は龍之介に抱き上げられていて、思ってもなかった行動に一瞬にして涙が止まる。
いつの間にか太陽も沈み、暗くなったとはいえここは外だ。
温泉に泊まりに来ている客だろう。湖畔沿いを浴衣姿で散歩する人も、ちらほら見えるというのに。
何で私は、龍之介にお姫様抱っこされなきゃいけないのっ!!
「龍之介っ、恥ずかしいから下ろして!!」
「だから、離さないって言っただろ。旅館までこのまま連れて行く」
怒った口調でそう言うと、足早に歩き出した。



