「待てって言ってんだろっ!! 聞こえないのかっ!!」
聞こえてるに決まってるでしょっ!! 聞こえてるけど、無視してるのっ!!
従順な犬じゃあるまいし、待てって言われておとなしく待つわけないでしょ。
左腕を掴まれてもなお、その腕をブンブンと振りながら止まらず歩く。
「助けてやったっていうのに、その態度かよっ?」
プチンッ!!
頭のどこかが切れた音が聞こえて、足が止まる。
「今なんて言いました?」
龍之介の言葉に怒りが頂点に達したというのに、あまりにも冷静に声を出す自分が怖い。
「なんてって、助けてやった俺に対する態度じゃないだろう……」
パーーーンッ!!
龍之介の言葉を最後まで聞くよりも先に、右手が龍之介の左頬を引っぱたいていた。
神社の境内から抜けた湖畔に、乾いた音が響く。
「俺が助けたやった? 何偉そうなこと言ってるのよっ!! 誰のせいで私がこんな思いしてると思ってんのっ!! いい加減にしてよーっ!!」
これ以上出ないくらい大きな声でそう叫ぶとその場に座り込み、堪えきれなくなった涙を流して大声で泣いた。
「菜都……」
さすがの龍之介も私の態度に驚いたのか、声のトーンを変え横に座ると、泣き崩れている私の身体を抱きしめた。



