私は身体を起こすと、痛む足を引きずりながら弘田さんに近づいた。
「菜都、足どうした?」
龍之介の言葉も無視して、龍之介に押さえつけられている弘田さんを見下ろす。
「自分の欲のためだけにいろんな人を犠牲にして、巻き込んで。役立たずで使えないのは、弘田さん、あなたの方でしょっ!!」
弘田さんの横にしゃがみ込み胸ぐらをつかむと、右頬に平手打ちを一発食らわした。
「なぁ弘田。お前にとって俺は、そんなに邪魔な存在だったのか?」
龍之介の悲痛な声に、その心情が現れる。
龍之介と弘田さんは、同期で元同僚。入社したばかりの頃は、きっとお互いを励まし合い頑張っていたのだろう。
それが今では……。
「ああ、邪魔だったね。俺がどれだけ頑張ったって、いつもお前は俺の前を行く。それもいとも簡単にだ」
「いとも簡単にか……。お前には、俺がそんな風に映ってたんだな」
弘田さんのことを羽交い絞めにしていた腕を力なく下ろすと、龍之介も地面に座り込んだ。
「俺はお前と、ずっと一緒にやっていけると思ってたんだけどな。残念だよ」
それは龍之介の本心だろう。仲間だと思っていた人の裏切られた龍之介の悲しみは、計り知れない。
「で、俺をどうするつもりだ」
「そんなこと、自分で決めろ。ただ、今ここで菜都にしたことに関しては、菜都に決めさせる」
そう言うと、龍之介は俯いていた顔を上げ私を見つめた。



