「何であいつのために、涙なんか流すんだよ。あいつは清香と結婚するんだぞ。お前は体よく遊ばれてるだけって、わからないのかよっ!!」
「龍之介は、そんな人じゃない。あなたみたいに、ひん曲がった考えを持った人じゃないっ!!」
こんな状況になってるのは、全部龍之介のせいなのに。私が危機に晒されているっていうのに、一向に助けにこない龍之介に腹が立つのに。
それでも口から吐いて出てくるのは、龍之介を庇う言葉ばかり。
どんな危機的状況にあったって、龍之介を好きな気持ちはこれっぽっちも揺るがなくて。
「なんであんたみたいな奴を、こんなにも好きになっちゃってるのよぉ!! 龍之介っ、早く助けに来なさいよっ!!」
叫んでもしょうがないことを、叫んでしまう私って……。
「大きな声で叫んだって、あいつは今頃、清香と仲良くしてるだろうよ」
「そんなこと、あんたに言われなくたってわかってるわよっ!!」
あぁ~、どいつもこいつもムカつく!! ついでに、龍之介が好きでたまらない自分にも!!
「いつまでその威勢の良さを、保っていられるかな?」
「どういう意味よっ?」
「堤のやつには横領の罪を被ってもらう。その手筈も、もうそろそろ整ってる頃だろう。そして市川さん、君には……」
そう言うと何かを私の口の中に押し込み、両手を後ろ手に縛り上げられてしまった。
「大声を出されちゃ困るからね。今から君を、めちゃくちゃにしてあげる」
どれだけ声を上げても身体を動かしても、もうどうすることもできなくて……。
ゆっくりと近づいてくる弘田さんの顔から逃れるように横を向き、ギュッと目を瞑った。



