龍之介や弘田さんと顔を合わさないように急いで部屋にはいると、湖が一望できる縁側のソファーに深く腰をおろした。
二日目の旅館は湖畔沿いにあって、昨日の海とは違う穏やかさを見せている。
それを見ていると、少しずつ気持ちが落ち着いていくのがわかった。
「菜都先輩? 夕食の前に、お風呂行っちゃいませんかぁ~」
お風呂セットと浴衣を手に、未歩ちゃんがそばに来た。
「う~ん、どうしようかなぁ」
気持ちは平静を取り戻しつつあるけれど、何となく今はひとりでいたかった。
もう一度湖の方へ顔を向けると、湖畔沿いに遊歩道があるのが見えた。
気分転換に、散歩もいいかもしれない。
未歩ちゃんにお風呂は後にすると伝えると、ひとりで旅館を出た。
時刻は夕方の五時を少し回ったところ。
湖は沈みかけている夕日に照らされて、その色を薄っすらオレンジ色に染めていた。
それがもの悲しさを誘ったのか、涙がじゅわっと溢れ出てきてしまった。
柄にもなく、センチメンタルになったみたい。
そんな自分に苦笑して涙を拭うと、さっきまで感じなかった視線を背中に感じた。
一瞬にして身体に緊張が走る。嫌な予感しかしない。
走って逃げるにも、もうかなり歩いてきてしまって旅館までは結構な距離がありそうだ。
少しずつ歩く速度を緩めていくと、確実に近づく人の気配。
しょうがない。もうこうなったら、振り向くしかないでしょっ!!
足を止め大きく深呼吸すると、一気に後ろを振り向いた。



