龍之介の携帯が、大きな音を鳴らした。
「ちぇっ、誰だよこんな時に」
相手の確認もせず、面倒くさそうに電話に出た。するとすぐに電話の相手がわかったのか、少し顔色を変え私の顔をチラッと見た。
「あぁ、わかってる。菜都? 一緒にいるけど」
そう答える龍之介と会話しているのは誰なのか。携帯から漏れ聞こえてくるのは、間違いなく女性の声だった。
私のことを知っているような内容の会話に、すぐさま“清香さん”の顔が脳裏に浮かぶ。
「でもそれじゃあ菜都がっ……。わかったよ、すぐに戻る」
苛立ちを隠さないまま電話を切る。そして大きく溜息をつくと、私の顔を見つめた。
私がどうしたというのだろう。
でももう、そんなことさえどうでも良くなってしまった。
困ったような顔をして私のことを見ている龍之介に、こっちまでイラっとしてしまう。
「清香さんのところに戻るんでしょ? 私のことなんて放っておいてくれて構わないので、早く行って下さい」
自分でも、嫌みな言い方に呆れてしまう。
龍之介の言葉を信じて待つと決めたのに、電話の向こうの清香さんに嫉妬して、子どもじみたことを言ってしまうなんて……。
「菜都、俺は……」
「龍之介なんて、大嫌い」
それでも抑えきれない感情は勝手に私の口を動かしてしまい、思ってもないことを口走った。
俯き強く唇を噛む。そして私に触れようとして伸びてきた龍之介の右手を強く払いのけると、リネン室を飛び出した。



