「昨日、好きだ愛してるって言ったのは嘘なの? 清香さんが婚約者ってどういうこと? ずっと隠し通して、私を騙すつもりだったんだ……」
最後の方は、そんなことあってほしくない思いから、声が小さくなってしまった。
四年ぶりの恋に、憧れていたドラマチックな恋に、私ひとりが浮かれてただけなのかなぁ。
龍之介は、最初から遊びのつもりだったのかなぁ。
ドンドンと悪い方に考え自分が情けなくなってくると、目に涙が溜まってきてしまう。
龍之介のことで流す涙は、あの大雨の日。龍之介に拾われたあの日以来だ。
泣き顔を見られないように俯き、これ以上流れ出ないように涙を堪える。それでも身体の震えを隠し切れないでいると、ふいに身体がふわっと抱きしめられた。
それは龍之介の逞しい腕で、昨晩この腕に抱かれたことを思い出すと、一瞬で身体がカッと熱くなる。
今にも溢れ出そうだった涙は止まり、代わりに鼓動が早くなっていく。
こんな気持ちの時にこんなにも優しく抱きしめてくるなんて、やっぱりズルい……。
そうは思ってみても、腹を立てていた気持ちは納まりを見せ、龍之介のぬくもりをひとり肌に感じる自分がいた。
……って菜都っ!! そんな簡単に絆されちゃてどうすんの!?
もうひとりの私が、また顔を出す。



