極上ラブ ~ドラマみたいな恋したい~


便器の蓋を開けずそこに座り込むと、目の前にある小さな鏡に自分の顔が映る。


「みっともない顔」


温泉に入ったあとの薄化粧は取れ、浴衣の襟元はびしょ濡れ。情けなさから力なく苦笑すると、少しだけ気持ちが落ち着いた。


それにしても弘田さんのあの態度。思い出すだけで気分が悪くなる。


「なるべく近寄らないようにしなくちゃ」


自分に言い聞かせるように小さく呟くと、トイレから出た。


とは言え、このままじゃ宴会場に戻れないよね。確か部屋に予備の浴衣があったはず。


大きく溜息をつくと力なく歩き出し、洗面所から出る。すると目の前の壁にもたれかかり、龍之介が立っていた。


何も悪いことをしたわけじゃないのに龍之介の怖い顔を見て、つい癖でくるりと踵を返してしまう。


「おいっ、なんで戻るんだよっ。ちょっと、こっちこいっ!!」


トイレに逃げる間もなく腕を強い力で掴まれると、そのまま引きずるようにそのフロアの奥の、リネン室らしき部屋に連れ込まれてしまった。


「か、勝手に入っていいんですか? 旅館の人に怒られますよ」

「なぁ、弘田と何話してた?」


私の言葉は、無視ですか。


意地悪龍之介の時は、決まってそう。


「別に、何も話してません」


私はなんで、龍之介に睨まれてるの。腑に落ちない。


まぁどうせ私と弘田さんが一緒にいるのを見て、おそらく何を話したか察しがついているんだろう。


「嘘つくなよ!!」

「嘘ついてるのは、堤所長の方じゃないんですかっ?」


龍之介の言い方にカチンと来て、思わず言うつもりのなかった言葉を言ってしまった。


「それは……」


言い淀み、ハッキリしない態度の龍之介に余計腹が立つ。