「ちょっと妬けちゃうわね」

「えっ?」


小さな声で聞き取りにくかったけれど、今「妬ける」とか聞こえなかった? 


もしそれが正しかったとして、誰に妬けると言うんだろう。


周りを見渡してみても、特別妬ける状況のカップルは見当たらないし。


清香さんの顔を見て首を傾げると、慈愛に満ちた笑顔で私を見つめた。


「結婚は……するわよ。でも……」


そこで言葉を切りると、フッと息を吐いた。


でも……。何だと言うのだろう。


その後の言葉を息を呑んで待っていると、龍之介が清香さんの隣に立った。


「清香、そのあたりで止めておいたほうがいいんじゃないか?」

「……そうね。でも彼女を見てると、つい苛めたくなってしまって」

「苛めたくなるって。菜都は俺の大事な……部下だ」


えっ? 今“菜都”って言ったよね? どうしてここで、菜都なの?


目の前には清香さんがいるっていうのに。


それに「大事な」と言った後の間が気になる。取ってつけたように「部下だ」なんて……。


「龍之介さん、ちょっと喋りすぎ。私もだけどね」

「あ、あぁ。悪い」


なんなの今の会話。喋りすぎって、何が? 


ホントに、何がなんだかさっぱりわからない。


清香さんは『結婚する』って言うし、龍之介は“菜都”って呼ぶし。


あぁ~もうっ、いったいどうなってるのっ!?