龍之介を見ると、久しぶりの再会だからか、それとも綺麗どころが集まっているからか、嬉しそうに笑っていた。


気に入らない───


でもここは、久しぶりの再会だから許してやろうと大目に見ていると、その中のひとりが気になる言葉を呟いた。


「堤さん、今日は清香(さやか)も来てるんですよ」

「えっ? 清香が……」


その名前が出た途端、龍之介の顔付きが変わった。それはどことなく嬉しそうに見え、普段会社では見せたことのない顔に不安がよぎる。


清香さんって誰? 龍之介と、どんな関係なの?


何もわからないだけに龍之介のことを見つめることしかできないでいると、バスの中からもうひとり、ひときわ美しく優雅で上品そうな女性が降りてきた。


ゆるやかに吹いた風に長く艶やかな黒髪がなびき、それを整えている姿に女の私でも目を奪われてしまう。


でも次の言葉で、現実に引き戻される。


「清香、早くこっちに来なさいよ。堤さんはあなたの婚約者でしょっ」


えっ、婚約者って何? どういうこと?


呆然と立ち尽くす私の前を、清香と呼ばれた綺麗な女性が通り過ぎていく。その目は龍之介だけを見つめ、彼に向かってまっすぐ歩いていった。


そして龍之介も驚いたような顔はしているものの、彼女のことをしっかりと見つめていた。