「今日家に帰ったら、明日の準備をして待ってろ。迎えに行く」
龍之介はそれだけ言うと、自分だけさっさと会議室を出て行ってしまった。
迎えに行く? それってどういう意味?
それに私、まだ何も返事してないのにっ!! これはもう、決定事項なのっ!?
なんて思っていても、勝手極まりない龍之介に『嫌です』と言ったところで、却下は目に見えてる。
「準備してなきゃ、怒られるよね」
ひとり呟くと、少し乱れた制服を正す。
それにしても、さっきの『決着をつけてやる』と言った時の龍之介の顔。
いつもの私をからかう時のものとは違って、怖いくらい真面目で真剣な顔をしていた。
その後の、自信過剰な言葉はいかがなものかと思うけれど……。
でもそれって、龍之介は私のことが“好き”ってことなの?
拓海くんには申し訳ないけれど、私は龍之介のことが好き。もう爽やかだろうが意地悪だろうが、関係ないっ。
たとえまだ龍之介の心の奥に、別の女性が残っているとしても、私はその女性に負けたりしない。
まだ、さっきのキスの感触が残っている唇に、そっと指を当てる。
「このキスは、嘘じゃないよね?」
乱暴なキスを思い出し身体が熱くなり始めたのに気づくと、慌てて唇から指を離す。
何考えてんのよっ、菜都!!
そんな自分に苦笑すると、足取りも軽くデスクへと戻った。



