未歩ちゃんといい拓海くんといい、何がそんなに楽しみなんだろう。


まあね、海の近くの温泉旅館に泊まるから、食事だけは楽しみにしてるんだけど。


なんて、女子力の低い考えにひとり苦笑していると、拓海くんと入れ替わりで龍之介が本社から戻ってきた。


「堤所長、お疲れ様で~す」


相変わらず間伸びたあいさつをする未歩ちゃんに呆れながら、私も龍之介に目は合わさず頭を下げた。


「菜都さん、明日からの社員旅行の件で話があります。小会議室までちょっと来て下さい」


そう言いながら近づいてきた龍之介が私の肩に手を置く。瞬間、身体中に緊張が走る。


「は、はい……」


まだ手が置かれている肩から熱を帯びだして、声が震えてしまう。


「お願いします」


龍之介の声からは、なんの感情も読み取れない。それが余計に、私の心を不安にさせていった。


肩から手が離されて龍之介が歩き出すと私も立ち上がり、見えない糸に引っ張られるように後をついていく。


龍之介が小会議室の扉を開けて立ち止まると、私を先に中へと促した。背中に当てられた手に、身体がビクッと反応してしまった。


「そんなに緊張するなよ」


その言葉と同時に扉が閉められ、熱い吐息を首筋に感じた。