私の異変に気づいた拓海くんが、ティッシュボックスを私に手渡してくれた。


それを黙って受け取る。そして鼻をグジュグジュさせているのを見て可笑しそうに笑うと、話を続けた。


「あの時の堤所長、明らかにいつもの堤所長と違ってさ。別人って感じ?」


そうだよね。“あいつ”とか“俺”って言ってる時点でいつもと違う。


普段の堤所長なら、そんな言い方はしない。もっと物腰が柔らかく、歯向かうようなことなんて絶対にしないのに……。


なのにどうして、そんな態度をとったんだろう。


「でもそのとき思ったんだよね。あぁ堤所長、菜都さんのこと好きなんだなって」

「はぁっ!?」


なんで、そうなるわけ? どこにそんな要素があったと言うの?


「はぁ!? じゃないよ。菜都さん、わからない? って、菜都さんほど鈍感な人いないか。俺が何気にモーション掛けても、気づかないんだもんね」

「そ、それを言われると、なんとも言葉がありません」


申し訳ない気持ちになって俯くと、拓海くんの笑い声が部屋中に響いた。


「ごめん。別に菜都さんを責めたわけじゃないだ。でもさ、あの堤所長の気迫に満ちた態度を目の前で見ちゃうと、これはヤバいなと危機感に襲われちゃってさ」

「危機感?」

「そう。このままじゃ、菜都さんをとられちゃうって。もう一年以上菜都さんを想ってきたのに、つい最近やってきた堤所長に菜都さんをやすやすと取られてなるものかってさ」


そう言うと、少し離れていた距離を縮め、私の手を取った。