すると、フッと少し悲しそうな笑みを漏らし私から身体を離した。


「心配しないで。菜都さんが嫌がることはしないよ」

「拓海くん……。ごめん」


この場合“ごめん”はどうかと思うけど、それしか言う言葉がなかった。


「謝られちゃうと困るんだけどなぁ」


拓海くんが苦笑しながらそう言うと、私も何となくバツが悪くて苦笑した。


「で菜都さん、堤所長の傷の件だけど」

「うん」


顔を真剣なものに戻した私に、拓海くんは龍之介の傷の話をしてくれた。


私が受注ミスをしたあの日、拓海くんが堤所長よりも少し遅れて現場に到着すると、カンナ水道の社長に深々と頭を下げている堤所長の姿が目に飛び込んできたそうだ。


「慌てて俺も駆けつけるとカンナ水道の社長かなりのご立腹で、『ミスした事務員を連れて来い!!』って怒鳴ってて」

「それって私のこと?」

「そう。でも堤所長、『それはできない』の一点張りでさ。絶対に首を縦に振らない所長にしびれを切らした社長は、事務所に行くって言い出して」

「もしかして堤所長、それを止めさせようとして殴られたとか?」

「正解。その上、汚れてる現場で土下座までしてさ、『部下のミスは上司のミス。あいつは俺の大切な部下なんです。これに免じて、許してやってはもらえませんか?』って、頭を土につけてまで謝ってた」


言葉が出ない。その代わりに、目に涙が溜まり始めた。