「でも先輩。自転車置いてありましたけど、今日はどうやって会社まで来たんですか?」


ギクッ!! さすが未歩ちゃん、そういうところ目ざといね、あなたは。


なんて答えてらいいのかわからなくて龍之介を見ると、俯いて小さく肩を震わせている。


この状況を楽しんで笑ってるじゃないか……。


さすがは意地悪龍之介。助けを求めてしまった私がバカでした。


「じ、実家の世話になってたから、お父さんに送ってもらったの」

「そうですかぁ~。ご実家が近くて、良かったですねぇ」


ふぅ、セーフ!! 我ながら上手に誤魔化せたじゃない。ホッとしてデスクに着くと、少し離れた所で伝票を確認していた拓海くんが近づいてきた。


「菜都さん、おはよう。そっかぁ、実家に行ってたんだ。菜都さんが仕事休むなんて珍しいから心配でさ。俺、菜都さんのマンションに行ったんだよね」

「え?」


拓海くんが家に? 心配って、どうして?


拓海くんの真意がわからなくて彼の顔を見つめていると、二人の会話に割って入るように龍之介が現れた。


「菜都さん、おはようございます。もう身体の調子はいいんですか?」


……びっくりし過ぎて言葉が出ません。さっきまで一緒にいたのに、この変わり様。


私以外の人から見れば爽やかな、いつも通りの“堤所長”なんだろうけど、私にはその笑顔を下の白々しい顔が見え隠れしていて、なんとも小憎たらしい。