彼の気持ちが私に向いてないのに、今ここにいる龍之介が“好き”とは、口が裂けても言えなかった。
「とにかく明日は、自宅に帰ります。恩返しの件も、もう少し考えさせて下さい」
こんな気持ちのまま、一緒に暮らすなんて無理。
って言うか、恋人じゃやないふたりが一緒に暮らすなんて、あるはずがない。
しっかりと意思を持った目で彼を見つめると、龍之介が大きな溜息をついた。
「俺が好きなら、一緒に暮らせばいいのに。ホント、素直じゃないねぇ」
龍之介が私の左頬から手を離し、ゆっくりと立ち上がった。
「腹減っただろう。何か作るわ」
そう言って、キッチンに向かって歩き出した龍之介の手を慌てて掴む。
「それ、私がやります……」
と言ったものの、急に立ち上がったせいかクラッと目眩がして、もう一度ソファーに座り込んだ。
「バカだな、まだ治ってないんだぞ。それに、病人に作らせたら飯がマズくなる。そこで寝とけ」
マズくなるなんて意地悪言うくせに、そんな優しい目をして見ないで欲しい。
なんだかんだ言ったって、やっぱり最後には優しいんだから。
こっちこそ、調子狂うじゃない……。
龍之介に言われた通り、ソファーに身体を横たえる。点滴をして少しは楽になったけれど、まだ本調子じゃない身体は、私をすぐに眠らせてしまった。



