でも今、私の目の前にいるのは間違いなく龍之介だけど、あの日の彼じゃない。
私の憧れ思い描く恋とは、ほど遠いものしか想像できないよ。
そんなことを考えていると、私の口が勝手に動いてしまった。
「恋してるのは今ここにいる龍之介じゃなくて、いつも営業所にいる堤所長にです」
って、何告白してるんだ、私。
ドラマみたいに甘い雰囲気の中で、彼からの告白を夢見ていた私の願いは、龍之介の態度のせいで、泡と消えてしまった。
「だから何回も言うけど、どっちも俺には変わらないだろっ!! って言うことは、俺に恋してるってことじゃないかっ!!」
何でこの人は、こんなに怒ってるの?
別に私が誰に恋したって、龍之介には関係な……くもないのか。
どっちも同じ龍之介だって、そんなことは私だってちゃんとわかってる。そこまでバカな女じゃない。
私の言っていることは、ただ自分の気持ちを誤魔化しているだけ。
ここに連れてこられた時から、時々垣間見れる彼の本当の気持ち。
きっと彼の心の中には違う誰かがいて、それを必死に消し去ろうとしているんだ。
でもそれができなくて、苦しんでいる。
部屋のあちこちにある家具や、女性が選んだであろう装飾品の数々。それらがまだ、そのままの状態で置いてあるのがその証拠。



